バッハの無伴奏バイオリンの曲中に登場する3重和音、4重和音を同時には弾かずに、分散させて弾くという解釈・演奏です。
重音をわずかにずらして弾くことで分散和音のような、あたかもチェンバロで和音を弾くような、そうした解釈・演奏です。
セルジウ・ルカによる解釈
セルジウ・ルカはルーマニア出身でアメリカで活動したヴァイオリニストです。
経歴についてはWikipediaをご参照ください。
ルカはバイオリニストですが、バッハの無伴奏バイオリンのソナタとパルティータ全6曲について解釈や楽器(バイオリン、弓)について研究した結果を著述に残しています。
和音(重音)の演奏について、以下のようなことを述べています。
バロックバイオリンとバロック弓が3音または4音かならなる和音を同時に鳴らせるというのは学術的に何の根拠もない神話にすぎない
その誤った理論は100年以上にわたってバイオリン奏者に影響を与え、1920年代には究極のばかばかしさに到達し、バッハ弓(強い湾曲を作り出す弓)となった
いまだに3重、4重和音を同時に鳴らすことがポリフォニックな音楽演奏の理想だと誤解しているバイオリン奏者が多いのは残念なことだ
では、ルカの研究に基づく解釈では、どう演奏すべきかということですが、以下のようなことを述べています。
3重音、4重音を「和音」として考えることをやめることがバッハの無伴奏バイオリンの正しい奏法の原則を理解することになる
3重音、4重音はポリフォニックなテクスチュアの中で、それぞれ独立した音として横に流れる声部として聴き取れるべきである
重音をわずかにずらして素早く弾くことで、和音を「分散」させて弾くべきである
ルカは、こうした解釈について、バイオリンの親戚筋であるチェンバロの演奏方法から、この種のポリフォニックな音楽の演奏法の教訓を得られるとしています。
セルジウ・ルカの演奏

ルカ本人による、バッハの無伴奏バイオリンのソナタとパルティータ全6曲の録音が残されています。
CD(最初発売された際のLPにも)にルカのバッハの無伴奏バイオリンや使用楽器に関する記述が掲載されています。

このCDは残念なことに現在廃盤です。
バロック時代のオリジナル楽器(1669年ニコラ・アマティ製)で、当時の奏法で演奏しているとのことです。
しかし聴いてみると、最近多い古楽器によるバッハの無伴奏バイオリンの演奏より、ずっとモダンです。
現代の主流の演奏方法と比較しても、さほど違和感がないというのが正直な印象です。
もっと3重、4重和音を分散して弾くのかと思いきや、かなり普通の演奏に聴こえます。
